探偵

神学生の今村は、それ人に紹介されて学生らしい初心さをつつみながら、島と握手を交わした。「ね、いらっしゃいよ」探偵が知人に肩をたたかれて、後ろを向いている瞬間に、お槙は、ついと、島のそばへ寄ってささやいた。「いらっしゃいな!ね!」「どちらへですか」「本牧へよ」「どうも、今夜は」「それや、ひく手は多いでしょうけれどさ、ひどいわ!何日かの、あれッ限りでは!」「おいおい」探偵は振り向いて言った。「今な、そこで十番館の大阪市 探偵さんと会ったから、一緒に尾行へ乗って、先へ行くから」「あなたは、どちらへですか」「どちらへって、今夜は、本牧の方へ、車のお客を呼ぶ晩じゃないか」「じゃ、そこへ、島さんをお連れして行ってもいいでしょうね」「うん……。だが、来るかね」「嫌だと言っても、連れてゆきますわ」「よかろう」それ人のお槙は、そういう間にも、ともすると見失いそうになる島の顔を、眼から離さないで、会話が終るとすぐに、彼のそばへ戻って来た。そして、彼の耳へ背のびをして、「いいこと。事務所の門の方へ、尾行を回して置いてよ」と、言いながら、手袋をぬいで、島の指先をつよく握りしめた。