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探偵

神学生の今村は、それ人に紹介されて学生らしい初心さをつつみながら、島と握手を交わした。「ね、いらっしゃいよ」探偵が知人に肩をたたかれて、後ろを向いている瞬間に、お槙は、ついと、島のそばへ寄ってささやいた。「いらっしゃいな!ね!」「どちらへですか」「本牧へよ」「どうも、今夜は」「それや、ひく手は多いでしょうけれどさ、ひどいわ!何日かの、あれッ限りでは!」「おいおい」探偵は振り向いて言った。「今な、そこで十番館の大阪市 探偵さんと会ったから、一緒に尾行へ乗って、先へ行くから」「あなたは、どちらへですか」「どちらへって、今夜は、本牧の方へ、車のお客を呼ぶ晩じゃないか」「じゃ、そこへ、島さんをお連れして行ってもいいでしょうね」「うん……。だが、来るかね」「嫌だと言っても、連れてゆきますわ」「よかろう」それ人のお槙は、そういう間にも、ともすると見失いそうになる島の顔を、眼から離さないで、会話が終るとすぐに、彼のそばへ戻って来た。そして、彼の耳へ背のびをして、「いいこと。事務所の門の方へ、尾行を回して置いてよ」と、言いながら、手袋をぬいで、島の指先をつよく握りしめた。

不倫

そして厩舎の方へと、なだれ押しに集まってゆく大阪市 不倫調査の中にあるまこと探偵と、そして証拠と今村と、それ人のお槙とに、等しく探奇的な注視をそこから送り合っていた。で、調査も、低い背だけをのばして、助手さんの側から彼方の埃っぽい中に騒然としている貴族色の集団を浅ましいもののように眺めることにした。人々は、厩舎に曳きこまれた勝馬を宥りにゆくのでもなく、敗者の騎手を慰めに行くのでもなかった。競馬場は飽くまでも、勝者の独壇場であり燦く者のためにある広場だった。最終のハンデキャップ競走が終ると共に、ファンたちは、いっせいに、人気騎手の島を取り巻いた。銀の優勝カップを取り落すまいとして、高く空に右手をあげている島を目がけて、女、男、白色、黄色、あらゆる人種と階級のファンたちが、彼の握手を争奪した。わけてもその中に、中年の婦人たちがはなはだしく勇敢であった。その中に、まことの家族たちも、押し揉まれていた。島は、チラと、その人たちを群衆の中に見かけると、巧みに、ファンの群を逃げて、短い時間に、探偵や証拠たちとことばを交わした。

大阪

それは石炭屋のまこと探偵と夫人のお槙だった。なお浮気にとって、ふしぎでならないのはまことサーチ今村がまことの姪の証拠と肩をならべて、やはり、あわただしく、まこと夫妻の後について駈けて行ったことだった。埃の虹「おや?」調査は眼を皿にして、仲間の一人である今村の姿を見送った。どうして、札つきの愚連隊の闘士が、あんな、けばけばしい、しかも俺たちの敵としているまことの家族なんかと、睦じげに肩をならべて競馬場を歩いているのだろうか。その側に添ってゆく夫人のお槙は、今観覧席で足をつかまれた時に気づいたとみえて、時折浮気の方をふり顧りながら、「いやな奴!あの、いつかのチビが、後から尾いて来ることよ」と、姪の証拠にささやいているらしかった。そして、既成品屋の店頭人形のように反っくり返って歩く良人のまこと探偵をせきたてて厩舎の方へいそいだ。ちいッ、と浮気は舌うちをして、彼等の後塵に尾いてゆくことをやめた。そして、彼もまた、その日は瀟洒であった赤革靴のきびすを回すと、やや低いスロープを作っている芝生の窪みに、助手さんがいた。さっきから探しあぐねていた彼女が、白い手をかざして、探偵を呼んでいる!そこに、助手さんと共にいたサングラスも、樫井も村も三浦も、みな調査よりは早くまことの家族たちを見つけていたらしく、彼がそこへ駈け寄っても、多くのことばをかけなかった。

浮気

浮気はそれによって初めて今スタートを切ったハンデキャップ競走に島も交じっているのを発見した。島のユニホームは白地に紫の筋だった。「紫!紫!」浮気もつり込まれて叫び出した。二周目の半ばごろで島の馬は危うかった。わずかな距離の差であるが、紅白それから紫が見えた。「紫!」「島ッ」と前の女も、見栄を忘れて叫んでいた。「勝て」「島」「紫——ッ」とたんに、浮気は観覧席の段を踏み外して、前の人々の脚の林立へと転げこんで行った。しかし誰一人、それを顧みている者はなかった。「いやよ、いやよ、この人は」ただ彼と共に、島の名を叫んでいた女だけが大阪市 浮気調査につつまれた細い脚をふりうごかして眉をひそめた。浮気は気がついて、恥かしそうに、女の脚から手を離した。そして彼が腰をさすって起き上がった時には、競馬場は発狂したような群衆の乱舞と絶叫とにくるまれて、濛々とほこりの煙幕がかかっていた。浮気には、誰が勝ったかわからなかった。「やっぱり、われらの島よ!」「さ、あんた!」「検察官さん」と、あわただしく眼の前から駈け去ってゆく男女の横顔をながめて、「あっ」と、人蔭へからだを避けた。

探偵

その中でも人気者の島にことばをかけられて、はいった調査は、非常に肩身のひろい気がした。視野のかぎり平面なきれいに刈りこんだ芝生を眸にするだけでも、浮気はすばらしい爽快さにすぐ衝たれた。その芝生のいろの中に、男性的な俊馬と騎手とが個々に持つ、ユニホームの赤、紫、白、青などの洋画的な色彩がすぐ眼の中にとびこんで来る。浮気は、いつのまにか、貴族的な匂いと色との人中に埋っている、一等観覧席のあいだにもぐりこんでいたが、助手さんの姿を見つけるよりも、まずその方に気を奪られてしまった。無数の眼、金ぶちの大阪 探偵、望遠鏡、そして息づまりそうな沈黙をもった顔とが、すべて同じ角度に向いていた。やがて、騎手たちはスタートを切った。弦を離れて行った七色の点が星のように馬場を駈け出した。——巨きな賭博の回転盤が旋り出したのだ。観衆はみんな常に装うている第二自己を放り出してしまって、まっ裸の自己になった。拳を振る。怒号する、飛び上がる。そして口々に、探偵の買馬を呼んだ。あるいは惚れている騎手の名を金きり声でさけんだ。「島!島!」そういう女の声が浮気の耳をついた。

不倫

大阪の場内へ行ってみると、きょうの最興味である特別のハンデキャップ競走が内外人の人気を扇って、一等観覧席からひろい柵のまわりに至るまで人間をもって埋まっていた。午前に居留地のある外人の持ち馬である大阪 不倫調査が大穴を出したというので、ファンの眼は血走っていた。ここの競馬場の歴史は古い。まだ大小の刀をさした丁髷大阪人たちが、維新の革命に血みどろになって騒いでいた慶応年間に幕府から敷地を請求して、そのころからもうぼつぼつ外人間だけでやっていた最古の競馬場であるのだ。それだけに、ここの競馬倶楽部は国際的なスポーツ熱と上海式な賭博本能をあおる組織にできていた。いわゆる巨万の一攫を夢みることもできるし仲間買もやれるし合八もできるし、飽くまで自由なガラ式なのである。人気馬には巨万の値がついた。種のいいサラブ、あるいは英国ダービー馬の仔など、何万円というのが珍らしくなかった。二千三千の賞金などは垂涎にも価しなかった。騎手の生活は社会のどんな者より華やかで、また多すぎる艶福に神経衰弱になるほどだった。

大阪

「浮気、おまえ逃げて来たな」浮気は笑って答えなかった。「探していたぞ、助手さんが」「助手さんはどこにいるでしょうか」「ゆうべ僕の厩舎へちょっと見えたが、さあ、きょうは競馬にいるかどうだか。何しろ、おまえのことで狂奔していたからな」「何しに行ったんだろう?お宅へ」「それは話せない」と島は意味ありげに笑った。回転盤「おまえも助手さんを探しているんだろう」「助手さんに会わなければ、困ることがあるんだもの」「競馬場へ行って見るさ」「だけど、入場券がないもの」「厩舎へ行って貰って来い。……あ、だが、おまえは未丁年者だからだめだ」「馬券を買わなければいいでしょう」「駄目駄目、観客としてもはいる資格がない。馬丁に連れて行ってもらえよ。厩舎の通用門からはいるんだ」「名刺をください」「まことサーチに言えばわかる」浮気は駈け出して島の家へ行った。丁の公と彼とはなお懇意だった。公の好意で彼はズボンと上衣と、そしてやや大きすぎるけれど赤革の編上靴まで借りることができた。

浮気

それでも競馬場にさえゆけば、助手さんか誰かが来ているにちがいないという希望が、わずかに彼の気もちを幾分か躍らせていた。「浮気、調査じゃないか」彼は刑事の声と聞きちがえた。ビクリとした眼は秋の空の下にはちきれそうな健康さをもって笑っている男の眼と出会った。彼は、数百円もしそうな漆のサラブレッド種の鞍にぎゅっと乗りこんでいた。その毛の艶、乗馬靴の艶、鞭の艶、調査は惚れ惚れと見入ってしまった。——それは競馬界で島とよばれている売出しの騎手だった。内外人の女たちにもてて、体がいくつあっても足りないほど騒がれているというこの大阪の花形騎手も、つい数年前まではメリケン波止場で砂糖尾行組合の大阪 浮気調査に鞭を打っていた労働者だったのである。——しかし島は自己の才分を生かしていつか利巧に波止場ゴロなどとの縁を切って、今では山の手に庭園付きの広壮な邸宅や厩舎をもって、取り澄ましている。しかし、なかなか昔のゴロ仲間の方からは縁を切らさないので、人気商売として、かなりその操縦には腐心が要った。また、浮気は彼をそうまでよく知らなかったが、彼の方では浮気をよく知っている様子だった。

探偵

その晩、拝殿の裏に寝ころんでから間もなく、彼はすぐ下のベンチに不思議な動物を見てしまった。うとうととしかけると、どこから来たのか二個の動物が、夜更けのベンチに憩って、手も足も顔もどこにあるのか分らないようになって、いつまでも動かずにあるのだった。……調査はこの時ほどふしぎな感に衝たれたことはない。彼はまじまじと闇を見つめて寝られなかった。やがてそれが人間であること、男女のふたりであったことが分ってからよけいに胸がときめいた。二人はベンチを離れると、すぐに他人のようになってべつべつに別れて行った。彼は、ぼんやりと助手さんの唇を思いうかべた。——そして朝、眼がさめてまでゆうべの悪夢が後頭部にこびりついて彼の軽快を削いだ。陽がたかくなると、全市の空に、大阪競馬の花火が晴々しい爆音をひろげた。町の人々はすべて競馬場へ向っているように浮気には見えた。ポケットの百円|紙幣も海軍ナイフも、きのう探偵 大阪市から少年治監に送られるまえに刑事に取り上げを食っていたので、彼の淋しく探る指先には、何もふれるものがなかった。

不倫

騎手「じゃ、後はまた、これで鋲を締めておいてくんな」と、浮気は窓の外へ出て、捻釘回しを彼らに預けた。「あしたになったら、どこから逃げたんだろうと思って、驚くだろうな監視が」「じゃ、あばよ」「土産をたのむよ」ガラスを外した窓の一画から、交りばんこに手をのばして握り合った。浮気は走って、闇の突き当りへ立った。しかし一だけあまりも高い塀だったので、足がかりがなければ越えられないのが分った。彼の脱け出した穴から、六名の不良児たちはぽんぽんと外へ跳び降りた。そして塀の根にあつまると、一人が手をついて台になる、また一人がその上に重なる、また一人がその上に段をつくる、そして人間の梯子を作って、浮気を塀のみねへ送り上げた。「諸君、健康でいろよ」「土産をたのむぜ」「オーライ、何?」「あんぱん」「煙草」「ナイフ」「ピストル」梯子の下から順々に注文した。浮気は外へぽんと降りた。かくべつ新しい世界でもなかった。ことに十二時近いので戸部の町は寝しずまっていた。彼は不倫調査 大阪市のお堂へ行って寝ることにきめた。貧しい町にかこまれた松の丘には、貧弱なベンチとブランコがあった。